SEにとって百年に一度のチャンスが来た」は、ITpro の6月21日の情報サービス産業協会(JISA)副会長横塚裕志氏へのインタービュー記事のタイトルだ。情報サービス産業協会(JISA)の副会長でSE一筋40年の人だけあって、SEに対する思い入れが強い。次のようにSEに檄を飛ばしている。

「日頃からシステムの開発に取り組んできたSEは論理的な思考力が鍛えられている。しかも、SEは研究、製造、営業、経理、人事といった様々な組織のシステムを開発し、運用してきたから、組織間の関連や全社の業務の流れを俯瞰できる」。

自分は、どちらかというとSE不要論の方なので、それとは全く正反対のこのを書いてあった記事なので頭の片隅に残っていた。

お盆休みに、「なれる ! SE」というライトノベルが結構人気になっているということで「なれる!SE (8) 案件防衛?ハンドブック」を読んでみた。作者の夏海公司氏は元SEということで、日本のIT業界の実情がかなりリアルに描かれている。今回読んだ巻のテーマは既存顧客案件の攻防というよくある案件でスリリングなこともあるので面白く読むことができた。

このライトノベルを読んでいて、頭をかすめたのが横塚氏の記事である。確かに日本のIT産業を牽引してきたのはSEだったということは間違いない。大手SIerを中心にITゼネコンと呼ばれる世界、すなわち、SEというプロジェクト管理能力、顧客折衝能力がある人間を中心にして、下請けのSEやPGを使ってシステムを作っていくという構造を作った功績は大きい。

一方世界では、こういう日本のIT企業とは全く別世界にあるIT企業も多い。例えば、37シグナルの創始者の2人が書いた「小さなチーム、大きな仕事 - 37シグナルズ成功の法則」では、小さなソフトウェア会社が成功するための一つの手法が書かれているが、全くビジネスモデルが違う。

僕たちはまだみずからに制約を課している。一度にサービスに携わる人間は、一人もしくは二人だけにしているのだ。そして、つねにサービスの機能は最小限にとどめている。このように自身に制約を課すことで、あいまいな形のサービスを生み出さないようにしているのだ。

あれがない、これがないと嘆く前に、今自分ができることは何なのかを考えてみよう。

こういうやり方ってシンプルだけど余分なものがないから非常に効率がいい。確かに大規模なシステム構築の案件ではSEは必要だと思う。でも、それ以外の場合に本当にSEという調整役の人間が必要なのかはもう少し考えた方がいいと思う。自分もWebサービスを作ったり運営したりしているけど、今はクラウドサービスや OSS のソフトウェアがあるから、一人で数百万ページビューぐらいのWebサービスを作成して運営するのは可能だと思っている。

日本は会社人間が多い国だと思っている人が多いが、実は下のグラフのように、もともとは自営業の多い国だったということだ。1980年代に日本が成功した裏には、多様な技術を持った自営業者がいたということを本当は忘れてはいけないことなのだ。

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平成23年度  年次経済財政報告

日本は、高度成長気に労働集約サービスを有効に活用して世界のナンバー2になった。その成功体験から、会社という組織で普通に優秀といわれている人を中心にして、コミュニケーション能力や協調性のある人間を多く集めて仕事をするのがベストだという意識が身についてしまったようだ。

でも、1人や2人でも Webサービスが作れる時代だし、他方では、中国やインドには日本のエンジニアの半分以下の給料で働くエンジニアがいるという時代だ。大きな組織をつくれば身軽さや柔軟さを失ってしまう。5人で2人分の仕事しかできなければ、会社としては長時間のサービス残業をさせるしか生き残る道はない。それが日本の多くのIT企業やWeb制作会社の実態だろう。高度成長期の成功体験を忘れて、どうしたらいいか自分の頭で考えてみることが必要なのではないかと思う。